2010年08月23日

脳内ツアー

rice.jpg
BROWN RICE/DON CHERRY(A&M)/1976

マイルスに『オン・ザ・コーナー』があるように、ドン・チェリーには『ブラウン・ライス』がある。

沖縄民謡を思わせるキーボードの雨だれがポツポツと落ちていくイントロに、不穏なヴォイスが煙のように棚引いていく。熟して崩れかけたフルーツのように苦くて甘いギターのカッティングが左チャンネルで煩悶しつつ、シンプルなパーカッション(電子ボンゴ)が散発的に鳴る。「ブラウン・ライス」とつぶやくチェリーの声が、宇宙の創造神のような荘厳さで響きわたる。そして神に抗うかのようにフランク・ロウのテナーサックスが、しばしば野獣のような雄叫びをあげる。

シタールのドローン(持続音)が金色のペンキのように広がっていく中で、チャーリー・ヘイデンがウッドベースのピチカートで無国籍な味のメロディを紡いでいく「マルカウンス」。インドの古いラーガをチェリーがアレンジした曲だというが、たとえばベトナムの田舎の村に伝わる子守唄のように朴訥なメロディである。やがてトコトン、トントコと小気味良いスネアドラムスが炒り豆のように爆ぜると、宇宙の彼方からチェリーのトランペットが彗星のように降りてくる。ここはどこだ?

チリリンと鳴る諸行無常の鉦の音。ベースを掻き鳴らしながら読経の声が響きわたれば、今度はチベット密教の世界である。そこへ打ち水のように峻烈なピアノのコードが鳴り、それを合図にチェリーがトランペットを筆代わりに使って見事な曼荼羅を描き上げていく。後から出るフランク・ロウも今回は神妙な様子でそっと色味を添える。そして何の前触れもなく9分半からリズムが沸き上がり、祈祷者たちはトランス状態へと入る。ザックザックとリズムを刻み進めるピアノに合せて、フランク・ロウの怒り狂ったような咆哮に、チェリーはヨーデルみたいな脳天気な奇声で応える。

うねうねと高速で駆け巡るシンセベースのミニマルなリフが催眠効果バツグンの「デギ・デギ」は、まず電気エコーを掛けたトランペットが極彩色の妖しい花火を打ち上げる。ヴォイスとトランペットを交互に使い分け、リズムの波を掻き分けて軽快に滑っていく様子は、まるでハワイでサーフィンをするチベット僧のようである。何だかワケの分らない宗教にスッカリ洗脳されてしまったような聴後感だが、それは決して悪い気分ではない。それにしてもこの独ポリドール盤の酷いジャケは何とかならないものか。白いワクいらねえ。

BROWN RICE(5:14)/MALKAUNS(13:58)/CHENREZIG(12:50)/DEGI-DEGI(7:06)

DEGI-DEGI/DON CHERRY


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posted by やきとり at 12:00| Comment(8) | TrackBack(0) | 音楽 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ドンチェリーって身も蓋もある、玉手箱みたいなフリーですね、色とりどりのおカズが一杯詰まったお弁当みたいに。さしずめ玄米有機野菜自然食材幕の内。いきなり雑踏の街中でポケットトランペットを吹き出す少年みたいな純な人。オリジナルのジャケはもっとエスニックな放浪詩人みたいでした。
Posted by クロコ at 2010年08月23日 13:19
確かにフシギな人でしたね。どんなに変態フレーズを吹いてもエリック・ドルフィーはジャズの人だなあという感じですが、ドン・チェリーはジャズマン度が薄いというか何というか。90年代初期の録音をもっと聴いてみたいのですが、廃盤ばかりなんですよね。当時はフォービート原理主義者&反ジャズ新譜主義者だったので、チェリーの新譜なんてハナから無視していましたからねえ(笑)。

http://www.youtube.com/watch?v=aNXePvT5H0s

youtubeを検索してたら、ジャズなやつが出てきました。ハンコック、ロン・カーター、ビリー・ヒギンズのカルテット。演奏よりもチェリーの存在感自体がカッコいいなあ。
Posted by やきとり at 2010年08月23日 21:45
これを読んでえらくカッコ良さそうな音楽だと思ったから思わずAmazonで注文してしまいました。
楽しみです。
自分はこういう時代になってもある種の「ジャケ買い」感覚を維持したい気持ちがあるので、視聴の音の方はあえて聴いていません。
Posted by pulin at 2010年12月09日 07:40
私もいまだに「ジャケ買い」やってます。ただ中古盤がほとんどです。現在のようにネットで試聴できる環境が整ってからは、新譜(と言っても旧譜の再発がほとんどですが)は一応試聴してますね。うーん、よく考えたら、男らしくないというか潔くないというか(笑)。もしこれがお気に召したら、もっと悪意に満ちたマイルスの『オン・ザ・コーナー』も是非(とっくにご存知でしたらスンマセン)。
Posted by やきとり at 2010年12月09日 11:59
これ、とうとう今年中には届きませんでした。

それでは、良いお年を。
Posted by pulin at 2010年12月31日 10:21
どうやら、のんびり待つしかなさそうですね。届くのを待っている間が、またちょっと良かったりして(そうでもないかな?)。
Posted by やきとり at 2010年12月31日 12:26
明けましておめでとうございます。

これさっき中古CD店で発見してしまいAmazonよりも安かったから買ってAmazonの方はキャンセルしました。

聴きましたが確かに凄い。
ジャンル不明瞭感というか妖しいモンド感?が堪らないものがありますね。過剰なリバーブもそれらしい雰囲気を盛上げて。

ここの紹介がなかったら知らなかったと思うのでラッキーでした。
Posted by pulin at 2011年01月01日 15:49
おっ、新年早々良いことがありましたね。結果オーライでございます。モンドやローテクな味わいは確かにありますね。ダブルラジカセでピンポン録音したような、いかがわしさというか。ただし正月に聴くような音楽じゃないですけど(笑)。
Posted by やきとり at 2011年01月02日 02:18
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