2010年09月28日

南太平洋

southpacific.jpg
SOUTH PACIFIC/RICHARD RODGERS&OSCAR HAMMERSTEIN II(CBS)/1949

1949年に初演されたブロードウェイ・ミュージカルのサウンドトラック盤。オリジナルキャストによる録音だそうだが、メアリー・マーティンとエツィオ・ピンツァという主演俳優の名前は聞いたこともない。音楽はリチャード・ロジャースとオスカー・ハマースタインの黄金コンビ。
オリジナルキャスト盤と言っても当時のライブ実況ではなく、ちゃんとスタジオで録音した音源なので音質に問題はない。むしろモノラルで聴くフルオーケストラの演奏は、音の塊でゴンゴンと頭を殴られるような迫力がある。まずはオーヴァーチュア(序曲)で、これから演る出し物のお披露目でござい。転調しながら半音ずつ上下に動くストリングスがエキゾチックな「バリハイ」は、いかにも南の島の夜を思わせるムーディーな佳曲である。さらにイージーリスニングの定番曲「魅惑の宵」は、曲中これでもかこれでもかと日本人の琴線に触れてくる感動の大名曲。波のように押し寄せ、そして静かに引いていく。押し付けがましいだけじゃないのがポイントだ。


(映画版の「バリハイ」。偶然だろうけど、沖縄にはこういう髪型のオバチャンがたくさんいた)

「ブラッディ・メアリー」は勇壮なマーチだが、どこかユーモラスで優しいメロディが印象的。文字通り『南太平洋』は、先の大戦中に南太平洋のとある島の海兵隊に派遣されたアメリカ軍中尉と、軍の看護婦や土産物屋の娘たちとの恋を描いた物語だそうだ。ストーリーとは関係ないが、この時の海兵隊の主な任務と言えば、焼夷弾をたらふく飲み込んだB-29でOKINAWAを焼け野原にすることだった。ポップかつクラシカルな優雅さも併せ持つ「ワンダフル・ガイ」は、思わずステップを踏みたくなるワルツ曲。女性歌手の夢見るような独唱に心も躍る。そのワンダフル・ガイはこれからOKINAWAに爆弾を落としに行くんだけどな。まあよそう。


(これも映画版「ハッピー・トーク」。お姉ちゃんを売り込むヤリテババアみたいだな)

いかにもロジャースらしい必殺のバラード「春よりも若く」に酔う。まるでオペラを聴いているみたいな(聴いたことないけど)流れるような展開に息をのみ、最後に待っている感動的なエンディングに思わずためいき。美しいメロディなのにどこかユーモラスな「ハッピー・トーク」も名曲である。十数年前にビールのコマーシャルで使用されていたので、たぶん知っている方も多いと思う。「ワンダフル・ガイ」と同じ歌い手による「ハニー・バン」は、ほんの少しだけガーシュインの香りを残した小曲。伸びのある男性アルトで歌われる「ユーヴ・ガット・トゥ・ビー・ケアフリー・トウト」はなかなか軽快な間奏曲。そしてバリトンが朗々と歌い上げる「ディス・ニアリー・ワズ・マイン」はゆったりとしたワルツ仕立てで。かようにさまざまな歌い手が入れ替わり登場する構成は、さすがミュージカルである。いや私は嫌いじゃないです。


(これはオリジナルの「魅惑の宵」。エツィオ・ピンツァさんは名前からするとイタリア系でしょうな)

後にジャズスタンダードになったロジャースのミュージカル曲は多い。たとえば「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」「スプリング・イズ・ヒア」「ブルー・ムーン」「マイ・フェイヴァリット・シングス」「マイ・ハート・ストゥッド・スティル」「ラヴァー」「ロマンティックじゃない?」「マイ・ロマンス」「リトル・ガール・ブルー」「レディ・イズ・ア・トランプ」「恋に恋して」「春のごとく」「ゾウ・スウェル」「ジョーンズ嬢に会ったかい?」「ディス・キャント・ビー・ラブ」「アイ・クッド・ライト・ア・ブック」「イット・ネバー・エンタード・マイ・マインド」と、書き並べただけでマイルスやエヴァンスの音楽が聴こえてくるようなラインナップである。ロジャースの書く曲は他のミュージカルの作曲家に比べて、元々アメリカ音楽やジャズの匂いが希薄だ。どちらかと言うと、クラシックやオペラ曲に近いかもしれない(もちろんポップだけど)。

エヴァンスは「マイ・ロマンス」のコード進行を完全に書き換えたし、マイルスも「アイ・クッド・ライト・ア・ブック」を高速フォービートで料理したし、コルトレーンは「マイ・フェイヴァリット・シングス」をインド民謡に変えてしまった。各人ジャズ化にはかなりの工夫を凝らしたと思われる。しかしなぜか『南太平洋』からは、ジャズの定番になるような曲が生まれていないのだ。あまりに明るく、あまりにポップだから? まあエキゾチック・ムードがやや過剰なので応用が利きにくいという側面もあるかもしれない。ちなみに「バリハイ」は高中の「ブルーラグーン」のイントロに応用されている。

1958年には映画化され、サントラ盤も出ている。ポップミュージックとしては音質、アレンジ共に映画盤が勝るので、試したい方はそちらからどうぞ。


【関連する記事】
posted by やきとり at 01:00| Comment(10) | TrackBack(0) | 音楽 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
このバリハイ島のモデルになっているのが、僕の住んでいるモーレア島です。

ここからは遠すぎてB-29は飛んでなかったと思います。今でもエアバスで成田まで12時間半です。

Posted by ヒコ at 2010年09月28日 07:25
>メアリー・マーティンとエツィオ・ピンツァという主演俳優の名前は聞いたこともない。

ぎゃ! ジェネレーション・ギャップじゃ。
まさか、「ジュリー・アンドリュースって誰ですか?」とか、言わないですよね。
Posted by kuroneko at 2010年09月28日 09:21
バリハーイ♪は知ってたけど、そんな映画だったとは知らなかった。
ジュリー・アンドリュースはモチロン知ってるけどアタシも主演の二人は知らなかった。
でもこの映画がハワイで撮影されたって話は何故か知ってたなぁ。何でだ。
で、ヒコさんの仰る様にB29がモーレア島から日本空襲に出撃したって記録は無かった様ですね。
で、モーレア島をグーグルで調べたらヒコさんが3番目に出てきたし。
ところでヒコさんと徳永英明が同じ中学出身だったてのは要らないネタか。
Posted by ドーはドンクサイのドーのひまお at 2010年09月28日 11:09
ドーはドンクサイのドーのひまおさん>

モーレア島がマイナーなせいか、僕がヒマ人なので徘徊が激しいのでグーグル3番目の光栄です。ひとえに皆様方のご協力の賜物と感謝しておる次第です。

ほんまや、徳永英明が同じ中学出身やんけー!って徳永英明てだーれ?

Posted by ヒコ at 2010年09月29日 03:32
>ヒコさん
あ、そうでしたか。解説によると、主人公の中尉は「対日作戦」のために本国から島に派遣されてきたとなっているので、B-29じゃなかったら軍港か何かがあったのかなあ(てゆうか映画を見ろよ俺)。

>kuronekoさん
さすがにジュリー・アンドリュースは知ってますよ。「サウンド・オブ・ミュージック」は子供の時に何度もテレビで見ましたしねー。てゆうか調べてみたらまだご存命だったんですね。

>ひまださん
ホントだ! 3番目! それにしてもライブカメラの映像が美し過ぎです。ゴミゴミした千葉県でうごめいてる身としては、まるで夢のような場所ですね。ヒコさんの民宿にいつか行ってみたいなあ。なーんも考えずに海岸で昼寝したい。
Posted by やきとり at 2010年09月29日 19:47
やきとりさん>

実際に米軍の航空基地が、あのリゾートで有名なボラボラ島にあったのです。ボラボラ空港は米軍によって作られ、タヒチ空港より先に出来たわけです。

米軍は日本軍が来るのを待ち受けていたわけで、今でも山の中腹には使われなかった大砲の一部が残っています。

結局日本軍はここまで来ていませんので、戦争の影響はまったくなかったわけで、逆にヒマしていた米軍の兵士たちと現地の人とのラブストーリーのミュージカルです。

当時のミュージカルのテーマとしては以外に人種差別が太いテーマとなっている、斬新なものです。

うんちくうんちくうんちくうんちくうんちくうんちく…  

だれだ!うんち食ったのは!


Posted by ヒコ at 2010年09月30日 03:15
映画にも音楽にも疎いのですが、60年代は、ミュージカル映画はけっこう多かった印象。その前の50年代のミュージカルのナンバーもポップスのスタンダードとして、よくラジオで流れていた。
 芸能人さんは、将来の希望と尋ねられると「ミュージカルに挑戦したい」というのが、パターンでした。
 子どもの頃だから曖昧な記憶ですが、メアリー・マーティンからジュリー・アンドリュースへの代替わりの時期だったのでしょう。なんとなく前の代のスター歌手も知っている。(その前のエセル・マーマンも名前だけは知られていたと思います)

 わたしも『南太平洋』は見ていないけど、今から見るとどうなのかしら。『王様と私』などもそうだけど、どっかに西欧目線が忍び込んでいるってことないかなあ。
Posted by kuroneko at 2010年09月30日 11:44
>ヒコさん
なるほど。守りの橋頭堡というか、ここで待ち伏せしていたわけですね。勉強になります。それにしてもyoutubeの映画の断片を観ていると、沖縄に鉄の暴風雨が吹き荒れているのと同じ時に、アメリカの兵隊さんは島の娘さんたちとチチクリあったりして、まあ戦争に負けるはずですね。負けると分っていた戦争を強引に推し進めた連中の子孫が、毅然と政治家やってるんだから笑わせますな。あと、うんちは食ってはいけませぬ。

>kuronekoさん
50〜60年代中期に掛けてのハリウッド映画には、ヒットしたミュージカルから材を取った作品が多かったんですよね。今で言うとマンガ原作のお手軽映画みたいな感覚?(いや違いますね) 古いミュージカルから生まれたスタンダードは、私はジャズカバーで覚えた曲がほとんどなので、原曲を聴くと新鮮なんですよね。機会があればこの手の古いハリウッド映画をちゃんと観たいのですが・・・ツタヤの会員になる所から始めなきゃ。
Posted by やきとり at 2010年09月30日 12:51
次はハロー・ドーリーか。もうやったかどうかは知らぬ存ぜぬ
Posted by ひっちも at 2010年10月01日 11:14
んー残念ながらそのサントラは持ってません。ついでにルイ・アームストロングのCDを1枚も持っていない私は、バチ当たりのジャズファンでございます(いやフツーは持っていないはず)。
Posted by やきとり at 2010年10月01日 13:18
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:


この記事へのトラックバック
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。