2010年11月23日

カナカナ

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蜩(ヒグラシ)の声/(Voice Of Thousands)/2009

いま、私の部屋は爆音の蝉しぐれで満たされている。

ヒグラシの自然音だけが収録されたCDをずっと探していた。私が育った沖縄にはクマゼミという日本最大のセミ(こいつの鳴き声は本当に暑苦しい)がいるだけで、ヒグラシは1匹もいない。子供の頃、夏休みに遊びに行った祖父母が住む立川の巨大団地では、夕方になるとどこからともなく涼しげなヒグラシの声が聞こえてきた。しかし東京のヒグラシは虚弱体質なのか、たいてい3分ほど弱々しく鳴いた後、すぐにアブラゼミの大合唱に掻き消されてしまうのだ。ヒグラシの蝉しぐれを長時間聞いてみたい。そんな長年の願いがようやく成就した。

ネット検索でたまたま発見した本作は、某県在住の一般の方が近所のヒグラシの声を自家録音した約33分の音源が入ったCD-Rである。yahooオークションで送料込みで490円と安価で入手できるので、迷わず購入した。正直言うとそれほど期待していなかったのだが、送られてきたCD-Rをステレオ装置で再生してみると、まるで窓の外で鳴いているかのような臨場感に驚いた。最初は遠慮がちに鳴いている1匹に、また1匹、もう2匹と声が重なっていき厚みを増していく。解説を読むと、ヒグラシはグループ単位で鳴く性質を持つそうだ。

1つのグループがユニゾンで鳴いていると、やがて別のグループが出現して輪唱が始まる。グループはさらに増えていき、複雑に折り重なった立体感のある森のコーラスが目の前に立ち現れる。中には目立ちたがり屋のヒグラシもいて、仲間たちが作る「カナカナカナ」のテンポを無視して、「カナナ、ナナ、カナナナ」と独唱を始めたりするから面白い。よく聴くと同じヒグラシでも個性はそれぞれで、鈴の音のように透明な声で澄ましてる奴や、ちょっとハスキーな声が色っぽい奴までいる。

透明感と清涼感を失わないヒグラシのハーモニーは、長時間聴いていても疲れないし飽きることがない。気がつくとグループは1つ去り、2つ去り、最後にたった1匹だけ残った遠慮がちな鳴き声も、やがて夜の闇に飲み込まれ消えてしまう。試しにラジカセで渓流の自然音CDを流しながら、ステレオ装置でヒグラシを再生すると、自分がどこにいるのか分らなくなり不思議な感覚にとらわれた。そうそう、雨の日に雨音のCDを爆音で聴くのもオススメです。


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posted by やきとり at 00:00| Comment(2) | TrackBack(0) | 音楽 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
おひさしぶりっす!
ヒグラシ、ちょいと夏の夕方の寂寥感・・・っていめえじです。

やきとり師匠はもう、ご存じだと思うです、が、深町純さん、永眠されたんですね。

Posted by ちろ at 2010年11月24日 19:08
8月も終り頃の夕暮れですね。人の気配を嫌うばかりか、他の種類のセミが鳴いても黙ってしまう控えめな性格も、私好みでございます(笑)。深町純の逝去は昨日の新聞で知り、思わず「エッ!」と小さく叫んでしまいました。彼が参加しているフュージョンのアルバムは何枚も愛聴していました。合掌。
Posted by やきとり at 2010年11月25日 11:41
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