2011年07月26日

スマイル

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SMILE/森山威男(DENON)/1981

私的経済不況下、迷っていた森山威男の『スマイル』を買った。CD-Rのくせに2500円もする。ほとんどブートレグのノリだが、日本コロムビアの「オンデマンドCD」というオフィシャル盤である。

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手作り感の漂うパッケージ、ジャケットはもろカラーコピー、グリーンに輝くデータ面はCD-Rの証・・・やはりチープ感は否めない。まあ装丁はどうでもいい。さっそく聴いてみる。うーん音圧が低いなあ。音質もいかにもデジタル&フラットで、この時代の録音ならではの彫りの深さがまったく感じられない。せめて、もう少しレベルを上げて焼いてくれたら、そこそこ満足できたのに残念。え? 3000円の安ラジカセで聴いてるオマエに言われたくないって? ごもっとも。

本作は森山威男のリーダー4作目である。もともと名盤のホマレ高いアルバムなので、悪かろうはずがない。森山のドラムスが軽快にアフロビートを刻むイントロが出てきただけで、心ワクワクと踊る。森山グループで頭角を表した板橋文夫はまだ31歳と若く、ゴンゴンゴンギュランギュランと鍵盤を叩き付ける凶暴性と、朴訥でおおらかな和声感を併せ持った素晴らしいピアノを聴かせる。基本的にそのスタイルは不変だが、ギラギラした危うさはこの時代ならでは。ジェットコースターのような爽快感を得られる高速フォービート曲「エクステンション」は、その板橋文夫のオリジナルである。

そして2曲目は板橋の代表曲「ワタラセ(渡良瀬)」である。まさに「日本昔ばなしジャズ」の名曲。大地に根差したダイナミックなグルーヴがジワジワと日本人の心を溶かし包み込み眠らせる。その大地も放射能で汚染されてしまった。複雑な気分になりつつ、それでも大丈夫だ、しょせん愚かしい人間の作った物だ、おおらかな大地のグルーヴはいつか毒をも溶かし包み込み眠らせる、そう信じたい。テーマの良さをジックリと描き出す、どこまでも優しい演奏である。より激しいバージョンは、板橋自身のソロピアノで聴ける。

3曲目はゲストの松風鉱一作曲の「ステップ」。初期の松風のオリジナルらしい、いわゆるドルフィー風のギクシャクした起伏の激しいテーマがカッコ良い。ただしアドリブパートに突入すれば、爽快なフォービートでソロ回し。まるで熱く溶けた鉄の塊をちぎっては投げ、ちぎっては投げするような、危険で暑苦しいソロのすばらしさよ。現在の円熟した松風さんも良いけど、このズルムケ感丸出しの汗臭さがたまりません。

そしてタイトル曲の「スマイル」は、もちろんチャップリンの名曲だ。が、さっき言ってたことを翻すようで申し訳ないが、ジャズファンというのは名曲が嫌いだ。為にするスタンダードほど鬱陶しいものはない。たとえショボいオリジナルでもいいから、楽器同士の生々しいチャンバラが見たい(聴きたい)のだ。ジャズファンがジャズに求めるのは、ひたすら本物の血潮や肉片が飛び交う真剣勝負なのだ。ところが、この「スマイル」は良い。今まであえて触れなかったが、森山グループのレギュラー国安良夫のソプラノサックスの存在感が染みるのだ。

森山が叩き出すケレン味たっぷりのフォービートにも足をすくわれず、ひたすらマイペースで美しいメロディを飄々と吹く。ソロパートもほぼテーマの延長線上にあり、同曲の新テーマを即興で作曲しているかのような、天然かつ新鮮かつ朴訥なソプラノ吹奏がストンと心に落ちてくる。しかし国安さんは、この録音の約1年後に交通事故で他界してしまう。それでも明るく軽やかに、くるくると旋回しながら宇宙へと飛翔する国安のソプラノは屈託がない。「アトランティック時代のコルトレーン・カルテットだろう?」と評するのは簡単かもしれない。しかしメロディと狂気が同居する板橋のソロも含め、この演奏には強烈なオリジナルを感じるし、それを味わえなければウソだ。

最後は板橋のオリジナル「グッドバイ」でしめくくる。「渡良瀬」と双璧を成す名曲である。2曲目の「渡良瀬」同様、一致団結してテーマの良さをジックリ描き尽くすような演奏が潔い。指先に神経を集中させて1本、1本、まるで水田に苗を植え込むような板橋のソロは、曲ひいては大地への愛情を感じる。ここでは、あえてホーンのアドリブは必要ないだろう。数日前に入手して20回近く聴いたが、スイング、盆踊り、歌心、狂気、男気、青臭さがミラーボールの光のように交錯する、評判通りの名盤だった。


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posted by やきとり at 07:00| Comment(5) | TrackBack(0) | 音楽 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
この盤面の色、まさに一頃のブートのようですね。

配信に全面移行すればモノとしてのパッケージ商品よりも手軽に復刻盤も出せるかもしれません。
音質の問題でしょう。
Posted by pulin at 2011年07月27日 06:05
まあそれでも私は「パッケージ」が好きなので、余程のことが無い限りダウンロード販売には手を出さないと思います。もしも将来CDが消えたら、いま持ってる音源を一生聴き続けます。
Posted by やきとり at 2011年07月27日 09:00
ブート、再発、といえば、ビーチボーイズの『スマイル』オリジナル音源がいよいよ発売される、今年中に、という説が流れていて、本当なら、値が張りそうですが食指が動くかなという感じですね。
こちらの情報とか

http://bbfun.blog117.fc2.com/blog-entry-125.html
Posted by pulin at 2011年07月27日 10:30
「物欲を満たす」という観点からすると、CD-Rというのはかなり際どい企画ですね。
ロシアのポップスにはセミオフィシャル(=ほぼ海賊)盤という訳の分からないリリース形態があって、微笑ましくも悩ましいです。
Posted by 非国民 at 2011年07月28日 01:10
>pulinさん
いやあ私も「スマイル」のブートは何枚買わされたことか(笑)。2004年にブライアンが若いメンバーと完成させた「スマイル」が決定盤だと今でも思っていますが、公式から「ガレキ」が出るとなると、やっぱり気になります。とにかく余計なブックレットとかアナログとか要らないので、それこそコンパクトに出して欲しいものです。

>同志
10年くらい前にユニオンで、ビートルズのロシア盤を見ました。それが何と2in1仕様なんです。もちろん海賊盤などではなく、れっきとしたオフィシャル。ビーチボーイズだって2in1になってるんだから、初リマスターだの初紙ジャケだのチマチマ何回も再発するんじゃなくて、古典は合理的な形で常に市場に流通させるべきですね。

それにしても、私は音質にこだわる方ではないのですが、やっぱりCD-Rはショボいです・・・。
Posted by やきとり at 2011年07月28日 21:12
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