2011年11月14日

箱二題

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LIVE in Europe 1967/MILES DAVIS QUINTET(SONY)/2011

失業者のクセにBOXセットを2個も買ってしまい、もうしわけございません。まあ音楽を聴くくらいしか楽しみがない哀れなダサ夫でございます。どうかお許しください。

まずはマイルスの『ザ・ブートレグ・シリーズ Vol.1』から。3CD+1DVDというセット。DVDは昨年話題になったコロンビア・イヤーズ全集(71枚組BOX!)に付いていたボーナスディスクと同じ物。マイルスのCDはすでにバラでケッコー持ってますよ、というファンにはありがたい(まあ映像はほとんど見ないけど)。で、メインのCD3枚だが、いわゆる第2期黄金クインテットの、1967年のライブ音源。いまやマイルスのブートは百花繚乱&やりたい放題状態なので、さすがに業を煮やしたソニーがついに重い腰を上げたのか、まるで海賊盤業者を挑発するかのようなタイトルやダメージジャケも剣呑だ。Vol.1ということは続編も出るのだろう。さて感想の前に、同じバンドのBOXセット『コンプリート・ライブ・アット・プラグド・ニッケル 1965』に触れねばなるまい。

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(数年後に1枚多い8枚組の輸入盤に買い換えました。装丁は国内盤の方が断然良いんだけどね)

黄金クインテットを率いていた頃のマイルスのスタジオ盤は、メンバーが持ち寄った調性の薄い曲を端整に削り上げた、まるで切子細工のような曲が並ぶ名盤ばかり。具体的に言うと『E.S.P』『マイルス・スマイルズ』『ネフェルティティ』『ソーサラー』の4枚で、どれも妖しい美しさを放っている。すべての情緒を削り去り、ギリギリのところで曲として成立しているような際どいカッコ良さがあった。テナーのウェイン・ショーターに「作曲の勉強をしたことがないように作曲する」という名言があるが、確かに捕らえ処が無いようで一度魅入られると抜け出せなくなるショーターの曲が、特に妖しい光を放っている。そういえば他のメンバーや雇い主のマイルスまでが、まるでショーターが憑依したかのような曲を作っているのが面白い。

しかし95年に突然発表された7枚組BOXの『プラグド・ニッケル』は、当時のマイルスが、ライブハウスやクラブでは全く違う音楽を演奏していたことを教えてくれた(抜粋したアルバムがすでに2枚発売されていたが、私は未聴だった)。

曲目だけ見れば何度も演り尽くしたスタンダードばかりだが、あと2歩でドシャメシャ大会突入というギリギリの地点で踏み止まる、実にスリリングな演奏なのだ。どれも10分から15分の長尺演奏で聴く方も体力を要求される。「つな引き」にたとえると、向って左に陣取るショーター、ハービー・ハンコック、トニー・ウィリアムスの連合軍が力任せにエイヤッとフリージャズ側に引き寄せると、演奏は混乱混沌を極め、ステージ上に音のカオスが出現する。そうはさせまじと、豪腕マイルスがたった1人で右方向に引き戻せば、たちまちバンドは立ち直り、高速フォービートで疾走開始。その目まぐるしい展開、激しい感情のぶつかりあい、破壊、再構築、再破壊のカタルシスが、切れ目なく何度も訪れる、ドーパミン噴出しまくりのライブである。ちなみにロン・カーターは中立で、いわば審判員か。

それから2年後、同じメンバーによる1967年のライブである。さぞかし大荒れだろうと野次馬根性で聴いてみたら、これが意外とこぢんまりとしている。いや素晴らしいライブには違いないのだが、こちとらプラグド・ニッケル以上のドシャメシャ大会を期待していたので、ちょっと肩透かしをくらった形だ。長年連れ添った夫婦のような「あうん」の呼吸とでも言おうか、ワシらも昔は色々あったけど、まあまあ仲良くしましょうやみたいな、ある意味すべてを超越した演奏である。が、裏をかえせば「やっつけ」「馴れ合い」とも言える。このメンバーなので、たとえ馴れ合いでも物凄い演奏なのだけど、プラグド・ニッケルのような本気のバトルは聴くことが出来ない。さらに、この時のマイルスの腹の中には、すでに次の計画があった。すなわちバンドの電化である。


既発売のブートDVDの映像。画質アップバージョンが、今回のDVDにも入ってます。67年11月7日、ドイツにて。

当時最高レベルの若手ジャズミュージシャンを従えて、アコースティック楽器でのジャズは、64年〜68年の足掛け約4年間でほぼ完全に演り尽くした。逆に言えば、あれほど同じことを繰り返すのが嫌いなマイルスが、同じバンドをほぼ4年間維持したことの方が奇跡だ。しかし、さすがにもう全部演り尽くした。こいつらとはいつ演奏しても、常に100点満点が出せる。SO WHAT? それにしても目障りなのは、最近若者が熱狂してるロックってやつだ。俺ならもっとうまく演れるぜ・・・というわけで、マイルスの興味はエレキベースやエレクトリック・ピアノのサウンドと、唐竹割りのような強烈な8ビートに移っていた。以上、批判めいたことを書いてしまったが、その手の予断を抜きにして2011年の耳で聴けば、恐ろしくカッコ良い音楽である。まだDVDは見ていないが、CD3枚はヘビーローテ中。ただしDISC2のラスト「ラウンド・ミッドナイト」が最初のテーマでブツリと切れてるのは、オフィシャル盤としてはいかがなものか。いや、「ブートレグ」だからいいのか。



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SMILE SESSIONS/THE BEACH BOYS(Capitol)/2011

さて次はビーチボーイズの『スマイル・セッションズ』である。「スマイル」の海賊盤は山ほど出ているが、公式に発売されるのは初めてだ。私もさんざん買わされて、正直「スマイル」には飽き飽きしているのだが、公式盤なら買わざるを得ない。満を持してということで、今回用意されたお品書きは、「(松)5CD+2LP+2EP+豪華ブックレット+おまけザクザク (竹)2CD+ポスター+缶バッジ (梅)1CD」の3品。中庸好きの日本人としては迷わず(竹)をチョイス。「スマイル」の本編ディスクと、レコーディングセッションを収録したボーナスディスク1枚のセットである。今まではブライアン・ウィルソンが残した膨大な音の断片を、過去複数の海賊盤業者があーでもないこーでもないと勝手に組み立てた「妄想スマイル」ばかり聴いてきたので、ブライアン本人が取捨選択するといかなる音楽になるのか。何てことない音の断片同士が絶妙に組み合さることで、まるで核融合のごとく素晴らしい曲が誕生するのではないか? 期待はたかまる。

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(輸入盤なのに日本語シールが貼ってある。このシールで300円くらい取られてるのか?)

で、聴いてみた。うーん、これは今まで聴いてきた数々のブートと、どこが違うのかな? 前半はほぼ想定内の流れで、後半がややサイケ度が高いかもしれない。いずれにせよ断片をゴチャッと並べただけで、期待していた「核融合」はオフィシャル盤でも起こらなかった。もちろんそれぞれの断片はそれだけでも面白いし、「アワ・プレイヤー」「英雄と悪漢」「キャビン・エッセンス」「サーフズ・アップ」「グッド・ヴァイブレーション」など、他のアルバムに分散収録された完成曲はどれも素晴らしい。ただ、レコーディング過程を収めたボーナスディスクの方がむしろ面白く聴けた。「アワ・プレイヤー」のコーラスを組み立てていく様子は目からウロコだったし、「クール・ウォーター」の別テイクは新鮮だった。いわゆる「セッションズ」の部分が、3枚分入った(松)が欲しくなるところだけど、さすがにLPとEPは要らないし、10000円を超えるBOXセットには手が出ない。というわけで2個のBOXセットを交互に聴きながら、ひたすら現実逃避している毎日でございます。



なんと! 発売日にはロングビーチでブライアンのサイン会が開かれたそうです。ちょっとお疲れモード?

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posted by やきとり at 21:00| Comment(6) | TrackBack(0) | 音楽 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コロンビアのTHE BOOTLEG SERIESはボブ・ディランが先行しておりまして、vol.9まで発売されております。
ここまでくるとどこが海賊版なのかよく分かりませんね。

ブライアンつながりですと、英MOJO誌にグレン・キャンベルの特集がありました。
アルツハイマーを患ってしまい、今月のイギリスツアーで引退とのことです。
ミュージシャンに定年はありませんが、インタビュー中に自分の歳を忘れたりと症状が進行しているようなので無事ツアーを完遂して欲しいです。

あとEMIグループが身売りしましたね。
本体はUNIVERSAL、出版部門はSONY、これでメジャーレーベルは3つだけとなってしまいました。
Posted by ホーボー at 2011年11月15日 20:11
なるほど。ディランはすでに9集まで出てるんですか。この人もブートが多いから、やっぱりコロンビア/ソニーによる海賊盤業者に対する意趣返しのシリーズでしょうね。だってコアなファンしか買わないだろうし、コアなファンはすでにブートを持ってたりと、ターゲットが微妙な企画ですもの。

グレン・キャンベルがアルツハイマーというのは驚きました。仰る通り、少なくともやりかけのツアーだけは完遂して欲しいですね。ブライアンの曲の中では、常に私的ベスト5に入る「ゲス・アイム・ダム」はまだ歌ってるのかな? それと数年前に東芝がEMIを切りましたよね。ブルーノートがソニーから出るのは違和感あるなあ。10年くらい前、URCのはっぴいえんどや高田渡がエイベックスから出た時も、相当違和感あったけど(笑)。
Posted by やきとり at 2011年11月16日 11:15
>高田渡がエイベックス
違和感を通り越して、目まいを覚えます。

グレン・キャンベルはショー番組の司会がなつかしいですね。もう75では仕方ないかな。
BB5とは関係ないですが、私のベストは「ジェントル・オン・マイ・マインド」。
YouTubeで見られる、ジョン・ハートフォードとの掛け合いが楽しそうです。

ところでこれ、なにげにイラブってませんか?
http://ultimatetwang.com/blog/wp-content/uploads/2010/03/Glen-Campbell-Gentle-On-My-Mind.jpg
Posted by カ at 2011年11月19日 23:33
おはようございます! 一聴フォークなんだけど、どこか洗練されてる感じがするんですよね。割れたアゴは洗練されてないけど(笑)。確か2枚組のベスト盤を持ってるはずなのですが、なぜか発見できず。
Posted by やきとり at 2011年11月20日 09:50
このFingerprintsは、最近移転(撮影された場所)したのですが、こだわるレコード屋でいい感じです。昔住んでいた所からのお散歩範囲で、よく通いました(移転前の場所)。またショッチュウこれからいけそうなミュージシャンの生演奏を店内でやってます。
ちなみにLong Beachは”浜辺”的聞こえですが、LosAngelesでの大規模商業港+石油精製所+沖合い汚水処理施設がある工業都市です。あと女優Sandra Bullockの前夫であるJesse James のカスタムバイク(オートバイ)屋もこの地です。
Posted by Fingerprints at 2011年12月26日 12:07
お、現地を知ってるとはさすが! きっと今頃でも暖かいんだろうなあ。こういうレコ屋が残っているのが良いですね。日本の街のレコ屋はほぼ全滅。タワレコなどの量販店か、エキナカの新星堂か、アマゾンぐらい。それにしても「こいつが最初に出たスマイルのブートLPだぜ」と自慢げなオッサン。海賊盤にサインさせようとする度胸がスゴイ。てゆうかブライアンはサインしたのだろうか?
Posted by やきとり at 2011年12月27日 12:17
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